★日本語【読みまつがい】
しょくん、
げつようびだ、
いぇええ~~い!
――などというヤル気に満ちた猫がこの世にいるはずもなく、
つぎに見たときは、こんなふうでした。
その鼻先をのぞきこんで、ふっと笑ってしまう。
くちまかせ、くちまね、くちもと、くちやかましい、くちやくそく、
ぐちゃぐちゃ、くちゅう、くちゅう、くちょう、ぐちょく......
辞書の単語は、ただ五十音順に並んでいるだけです。
その並びに意味はないはずなのだけれど――、
口やかましい人を相手に口任せに口約束をしちゃったもんだから
ぐちゃぐちゃの事態になって苦衷の口調で言い訳を考えているひと......
に、駆虫剤を飲ませたら、ますます大変なことになり......
てなシュールな作文が止まらなくなります。
辞書って、ほんとにヒマつぶしにはもってこいですな。
(ヒマをつぶしてるヒマなんかないときは、迷惑ですけど!)
それはともかく、上のページにあった「ぐちょく=愚直」、
これをわたくしは、つい最近まで、「ぐうちょく」と読んでおりました。
今週の日本語バナシは、そんな日本語教師として恥ずかしいお話です。
※「ぐうちょく」って読んでた方、もしいらっしゃいましたら、
つづき(↓)におつきあいください。
***
【読みまつがい】
世界にポピュリズムの嵐が吹き荒れ始めたころ、
しきりに「衆愚政治」という表現を見かけるようになりました。
あまりテレビを見ない人間なので、文字で目にするだけだったのですが、
ある日ラジオを聞いていたら、政治学者みたいな人が、しきりに
「しゅーぐせーじ」と発音しているのが聞こえてきました。
やあね、このひと、間違えてる、ぷぷ......と、思ったのですが、
なんと、相手のアナウンサーも同じ発音で返しています。
どっと不安になって、こっそり辞書を引いてみたら......、
みたら、......「しゅうぐ」だった!
うわあ。
あわてて「愚」がらみのほかの単語を調べてみたところ、
上記の「愚直」も、「ぐちょく」が正しいことが判明。
うわわあ。
ずっと「ぐうちょく」と発音してたわ......。
こんな恥ずかしい間違いがそのときまでバレずにすんできたのは、
ひとえに、これらの単語の使用頻度が少ないからでしょう。
脳内で読むことはあっても、声に出すことはめったになかったために、
「やだ、日本語教師のくせに!」と笑われずにすんだのでしょう。
ふう。
*
じつは、恥ずかしい間違いはもう一つありまして、
これは、拙著『辞書のすきま すきまの言葉』にも書いたことですが、
私はずっと、「女王」を「じょうおう」と読んでいたという過去があります。
エリザベス女王、女王陛下の007、女王蜂、女王様とお呼び!
ぜんぶ、ジョーオーと発音していました。
日本語教師になって、漢字の授業の準備をしていたときに知ったのです。
「じょうおう」じゃなくて、「じょおう」が正しいと。
ショックでしたね。
これは「衆愚」と違って、人前で口に出す場面もあったはずですが、
誰もそれまで私の発音を笑わなかったし、困ったことに、
いまだに私の耳には人々も「ジョーオー」と言っているように聞こえます。
さらに、心優しい日本語入力システムは、
「じょうおう」と打っても「女王」と変換してくれるので、
ますます間違いに気づかなかった次第です。
日本語入力システムと言えば、先週の記事では悪口を言いましたけれど、
ほんとに心優しいというか、間違いに寛大というか、
最近では「雰囲気」を「ふいんき」と発音する人が増えているのに合わせ、
「ふいんき」と打っても、「雰囲気」と変換してくれるソフトもあるとか。
*
それにしても我ながら不思議なのですが、
それまでも、「女王」を引っくり返した「王女」の「女」は、
ちゃんと「じょ」と認識し、ちゃんと短く発音していました。
「女性、女傑、彼女、淑女」、みんなそうです。
なぜ「女王」だけ間違えちゃったのかな。
もちろん後続の「王」の「お」に引きずられたには違いありませんが、
「漢字の読み仮名」として「じょう」だと信じていた理由にはなりません。
ふしぎです。
さきほどの「愚」にしても、「愚息、愚痴、愚考、愚弄、愚図、愚連隊」などは、
ちゃんと「ぐ」だと思っているし、そう発音してきました。
なのに、「衆愚」と、あと「愚直、暗愚」も、「ぐう」だと思ってきました。
そのまちがいの法則は何だ!と自分に問いたいですな。
まちがえるにしても、筋の通ったまちがえ方をしろ!と言いたい。
*
いつにも増して、お読みになっても何の役にも立たぬ話だったと思いますが、
みなさまにも、こういう「筋の通らない勘違い」、おありでしょうか。
あるヨと言っていただけたら、心の傷が、少しふさがる気がいたします。