★日本語【タラちゃんしゃべり】
ウリ猫のこの夏の居場所は
家じゅうを転々としましたが、
梅雨が明けてから8月いっぱいは
ここにいることが多かった。
寝室の、
クローゼットとベッドの間の
細長い空間です。
突き当りのこの小窓は、
先代猫ニャンタ専用の通用口でした。
ニャンタは外出自由猫でしたのでね。
散歩に出たくなると、ここに来て、
「出しなさい」と命じる。
開けてやると、にょろんと出て行き、
満足すると、大声で呼ばわって
網戸を開けさせ、すり~っとご帰還。
なつかしいなあ。
今年は、ようやくついに
オバは生きて秋を迎えられそうです。
案じたのは
ここは冷気もたまるけど、
小窓に背中をくっつけていれば、
お日さまの熱も伝わる、
絶好のポジションなのでしょう。
かちこいなあ。
なあ。
顔、変になってますけども。
***
日本語【タラちゃんしゃべり】
記事の中の「かちこいなあ」は、
もちろん「かしこいなあ」です。
今週の日本語バナシは、
なぜ「し」が「ち」になるのか、です。
かの国民的アニメ『サザエさん』ちの
最年少メンバー、タラちゃんの発音ですね。
仮にこれをタラちゃんしゃべりと呼びましょう。
相手がちいさな子ども(や猫)だったりすると
ついつい大人もこのタラちゃんしゃべりになる、
妙に甘ったるい、舌足らずな話し方になる、
――これ、よくあることですよね。
はたで聞いているとキモチワルイですが、
これは、いかんともしがたい現象ですな。
どうしてそんなことになるのか、
心理的なことは今はおくとして、
このタラちゃんしゃべりの発生する原理を
きょうは軽くご紹介しようと思います。
*
タラちゃんの「舌足らずな感じ」の代表が、
「し」が「ち」になったり、
「す」が「つ」、「つ」が「ちゅ」になるというもの。
ここから先は音声学の話になりますが、
音の作り方(=調音法)でいうと、
「し」や「す」は、摩擦音、
「ち」「ちゅ」「つ」は、破擦音です。
閉鎖音(=破裂音)というのもあって、
「た」「か」「ま」「ば」などがそれです。
閉鎖音(=破裂音)というのは、
文字通り、口のどこかで息をせき止め、
しかるのち、爆発的に開放して音を作ります。
摩擦音というのは、完全にせき止めることはせず、
ごくちいさなすきまを作って、そこから息を漏らします。
破擦音は、いったん閉鎖した後で
わずかにすきまを作って息を逃す、二段構えです。
さて、ちいさな子どもにとって
いちばん簡単なのは、どれだと思いますか?
閉鎖音(=破裂音)です。
赤ちゃんがいちばん初めに出す音は
マ行が多いと言いますよね。
マ行の音は、唇を使った閉鎖音です。
せき止める場所が歯の裏やのどの奥じゃなくて
顔の正面に見えている唇ですから、
視覚的にも、発音の方法が把握しやすい。
「ママ」は、最強の「初めてワード」なわけです。
いっぽう、微妙なすきまを作る摩擦音は
幼児にとって、難度が高い。
まだしも、いったんは閉鎖する破擦音は
出しやすいのでしょう。
**
それで、「そうです」が「そうでちゅ」に、
「おいしい」が「おいちい」に、
「さむい」が「ちゃむい」に、
「すき」が「ちゅき」になるというわけ。
えーと、以上です。
それがわかったから何だというのか。
何にもなりはしませんけれども、
摩擦音や破擦音を上手に使いこなしている
大人のみなさんは、ご自分をホメてよいかと。
エライでちゅ!
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猫な日本語2020.09.07